韓国ドラマイ・サンのあらすじサイト。1話~77話(最終回)までと各話ごと揃っています。ネタばれ率100%!小説風に書いているので、ドラマと二度楽しめます。
2017年6月7日水曜日
イ・サン76話「決戦の時」
敷石の広場で合同訓練が行われている。盾、槍、刀兵が、それぞれ縦横無尽に隊をなす。入れ替わり立ち替わりする兵士の多さは、肩が触れ合うほどである。
空は闇。宮殿の赤い柱も奥に行くほど闇に包まれた。
大砲と大太鼓は、これほど大量の兵をひとまとめに動かす合図に使われる。
壇上に沿い半円状に広がった石の土台が、階段とバリケードの役目を果たしている。板で囲ったマス席から見物するのは、黄金のうろこ鎧を着たサンに、ジェゴン、パク・チェガら検書官、そして重臣らだ。
ジェゴンが王様に声をかけると、サンが「はじめよ」と静かに答えた。
「火を消せ!」
禁軍別将の合図で、横長く伸びていたタイマツの炎は、兵士の手で次々に足元へおろされて鎮火した。
同じとき、城内が暗闇になるのを待っていた刺客たちは、五営軍の招きにより城門を抜け、王様を暗殺しようと城内へ侵入した。
1日に2度の襲撃までは誰も予想しないだろう。敵の狙いはそこにある。警戒する兵士の気が、どうしても緩んでしまうからだ。
そう気づいたとき、なんとテスは会場からだいぶ離れた所にいた。それで大慌てで、自分は西暗門から城内へ入るから、今すぐ警砲で王様に危険を知らせるよう仲間に頼んでいた矢先、「火が消えます」と、ちょうど部下がやって来た。
テスは思わず遠くの城に目をやった。レンガ塀や石塀に吊るされたすべての灯篭の灯が、それこそ流れ星を描くように素早く消えていき、城は闇に包まれた。
サンはまるで周りが見えているかのように、宙へ視線を流した。ナム尚膳やジェゴンも眉を潜めた。
何かの影が動く気配がする。しかしまさか目の前で護衛兵が無残に切り殺され、さらに壇上の兵士まで、足元をさらわれたように地面に落ちていったとは、想像していなかった。
黒ずくめの男らは、刀を突き立て、いよいよサンのいる壇上へ忍び寄り、石段にのぼろうと足をかけた。
とっさにサンが、サヤに龍の巻き付いた王の刀をテーブルから取り、テスもまた、ひらりと壇上へ飛び入ってきた。
テスはそのままイノシシが頭から突進するように、刺客らの中へと走った。刺客たちは、切り倒されて、なだれのように石段の下へ振り落とされていく。
「火をつけろ!」
騒ぎに気づいたジェゴンが、怒鳴り散らしたとき、警砲の代わりに放った花火が、空へ高く舞い上がった。火の粉をちりちり飛ばしながら、まるで夜明けのように辺りを紅く染め、下の方に濃い煙を残した。
その数秒後には、広場すべての灯篭の火が灯って、辺りが再び明るくなった。
合同訓練に参加していた大勢の兵に取り囲まれた20名の刺客は、そのまま逃げ場を失い、立ちすくんだ。
城の外れの草地に、高床式の見張りやぐらがぽつんと建っている。ようやく偵察から戻って来た部下が、五営軍の上官の耳元に、ヒソヒソと何かをささやいた。
五営軍の上官は、すぐに五営軍を東門から退却させることに決めた。しかし次の瞬間、木戸と木窓を蹴り破って突入したテスの壮勇営の姿を見たのだった。
焚き火が鍋ごとひっくり返って、草地はたちまち逃げまどう五営軍と壮勇兵の戦場となった。
五営軍を鎮圧したあと、テス率いる壮勇営は、続いてソクチュら重臣とその護衛兵の潜伏先へ向かった。彼らの身柄が捕獲されたのは、役所の敷地内にわりと見られる屋敷風の宿泊場である。
翌日には予定通り、恵慶宮の還暦の催しが開かれた。
かんぬきを閉めた正面の扉門の両側に、同じ門が少し引っ込んで3枚の門になっている。屋根つきの木塀が周囲にわたり、その区切りごとの高い位置に小窓が1つずつあった。
門の手前には、赤と黄の配色がくっきりした塔が左右に2つ立っている。黄色い布柱がキノコのようにぐんと伸び、赤い六角形の傘のてっぺんから、白い鳥が会場を眺めているのだった。
チャン・テウをはじめとする重臣は、赤い布に紫の布を上掛けしたテーブル席から、催しを楽しんだ。
立って見ているパク・チェガら検書官らの後ろには、さらに大勢の役人らがひしめいていた。
中央のスペースに敷かれた赤じゅうたんが、王族たちの壇上席まで道のように伸びている。
広場の後方で演奏される合奏は、笛、琴、びわ、太鼓によるものだ。
鑑賞用の大太鼓の周りを、舞女がくるくるとコマのように回る。大太鼓に描かれた龍や花の模様は、優しくさわやかで色とりどりだった。
舞女は頭に桜の造花を、手には牡丹のような造花をつけ、その先に垂れた布びれをひらひら動かした。
舞女が回転するたびに、衣のスリットが、ふっくらしたスカートに何本も巻き付いては、また巻き戻る。
代表の舞女は、背後の踊り子たちより、うんと幅広の袖を、ゆったりなびかせながら、サンと恵慶宮の方を向いて踊った。
王族のテーブルには、果物、おこし煎餅などが、先っちょを結んだ袋に詰めて並べてある。料理はどれも白地の平皿に放射状に盛られ、白い瓶にはツバキが飾られた。
大柄の花をあしらった背後の屏風は、やはり色とりどりで明るく淡い。恵慶宮の心もまた同じように晴れやかだった。
翌日、一行は都へ戻り、すぐまた現実に向き合った。
重臣らの拷問は朝から晩まで気絶するほど続けられたが、担当官は無駄骨に終わるのがわかっただけだった。
重臣たちは連判状に名前がないことを根拠に、大妃の関与をきっぱり否定した。
暗殺計画の前に、慎重なソクチュが念には念を入れたもう1つの作戦とは、本当に合同訓練の会場へ第二の刺客を送り込むことだったろうか?
処刑前日、ソクチュが獄中で、仲間の重臣らに強く誓わせたことがある。
「数百年続いてきた老論派の根を絶やしてはならぬ。忘れるな。老論派だけが我々が生きた証しを…!」
この小屋の石床は冷たい。土壁には手足に装着する鎖や、拷問用の長棒を立てかけてある。
サンが小屋を訪れたとき、大妃の目の周りは赤く、やつれ果てていた。それでも椅子に縛り付けになっているのを感じさせないほどに、威厳を保ち続けた。
「生きたところでどうなるのです? 宮殿を追われ、草葉に埋もれて暮らしたところで。私の命に価値があるのは大妃でいる時だけです。どんな手を使ってでも、私のいるべき場所に戻ってみせます」
「このまま重臣らの命を犠牲にするのですか?」
「ええ、そうです。私はそのつもりです」大妃はサンに小さく頷いた。
「いつかわかるでしょう。そうして手に入れた権力など風に舞い散る一握の灰に過ぎないことを。そんなもののために同士を捨てたことを」
大妃はもう聞くのが辛そうだった。歯をじっと食いしばり、耐え忍ぶ姿が、皮肉にもサンの問いかけに小さく頷いているように見えた。実際、サンの言っていることは、染み入るように理解ができた。自分の命はまさに重臣らの犠牲から成り立っているのだと。
サンがあきらめて小屋を出て行くと、場はしんと静かになった。事件の関与を認める代わりに、重臣らを助けたいとは、大妃はとうとう口にしなかった。それがソクチュとの最後の約束でもあった。
重臣一人一人の命のともしびが降り注ぐように、天袋の小窓から木漏れ日がさした。
外の声に大妃は哀れに耳を傾けた。
「刑場へ連れて行け。特にチェ・ソクチュは厳重に護送せよ。」役人がちょうど重臣らを連行しているようだった。じりじりと土を踏みしめる足音、そしてその様子を眺めているらしい男らの立ち話が聞こえた。
「ついに罪人たちが首を切られるらしい」「全部で8人だそうだ」
ともしびは今にも燃え尽きようとしている。大妃はとても孤独だった。
ふっくらした大妃の頬と、小さく1つに丸めた後ろ髪が、土壁に真黒な影となって映った。赤いひもで、ひじ掛け椅子に縛り付けられた両手は、動かすことさえできない。
特例で貸付米の返納の必要なくなったはずなのに、県監が私的に処罰し、民から米を収奪している。
暗行御史はそもそも地方役人の取り締まりを行う国王直属の官吏のはずだ。その暗行御史の懐に金を入れてやり、うまく丸めこむのも、また地方官吏が至福を肥やすための手段だった。
王命により、地方官吏と暗行御史の不正を、取り締まるよう命じられたヤギョンは、自らも暗行御史として地方を回ることになった。
暗行御史と県監をさっそく逮捕したあと、貸付米を滞納したとして牢に入れられていた民を解放、倉庫に貯めこまれた米も民にすべて返し終わった。
地方へ出たついでに、チャン・テウの屋敷を訪ねることにした。
今や朝廷を離れて隠居生活を送っていたテウは、質素だが質のいい服に、花のがくを3段重ねたような室内用の薄絹の帽子をかぶって、ヤギョンを部屋に迎えた。無駄なものを一切そぎ落としたゆえの品の良さで、中殿の孤独さとはまた違うものだった。
ヤギョンは、ついに五軍営が解体され壮勇営が取って代わったこと、現在は華城の貯水池の建造を進めていることをテウに伝えたが、細かいところではその他にも変化があった。
長い間、図画署に勤めたパク別提が退職することになったこと。
そしてパク・テロは従二品、壮勇営の大将に昇進するテスへの贈り物にと、明の刀匠が作った有名なホウォル刀を市場で品定めした。
その日、サンはまずパク・チェガらの案内で川の上流を視察した。
山から川にふりかかる霧が、空気を重くしている。川べりの小石の間に、飛びぬけて長く成長した1本の草が白い小花を咲かせていた。地面から豊富な水が浸み出すように、川はごく浅くなだらかに流れた。
「こちらが松竹に続く眞木川でございます。」とパク・チェガは説明した。
川幅が広く水量も十分で、堤防を築けば民のための貯水池が作れる。干ばつによる被害も格段に減るというわけだった。
部下の説明だと、すでに着工しており、ふた月もあれば完成するとのことだ。
現場を早々に引き揚げ、宮殿に戻ってからは武官の任命式をこなし、夜は執務室で遅くまで調べものをした。
恵慶宮に仕えるイ尚宮が、寝室へ帰る前に寄って欲しいとの恵慶宮のメッセージを伝えに来たので、すぐに行くと返事をし、ついでに調べものの方も、手じまいにすることにした。
今日はやけに疲れたとサンは思った。
2011/2/6
韓国ドラマイ・サンとは
時代背景 イサンは朝鮮王朝22代王です。 1776年に即位して、1800年に亡くなっています。 日本では江戸時代の後期に当たり、中国は清の時代です。ドラマの中でイサンの父である思悼世子が米びつに閉じ込められる有名な事件が起きますが、これは1762年のことでした。 イサンの祖...
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王子は目の高さで紙を持ち、背筋をまっすぐにした。1枚読んだら卓上机に重ね、また次の1枚を手に取る。 上奏文や巻物、書物の山は小さな王子をうずめてしまいそうだ。 それでもまだ父上の質問に対する答えが見つからなくて、気分はどうもマンネリになってきた。 もう3日も食事をしていない...