韓国ドラマイ・サンのあらすじサイト。1話~77話(最終回)までと各話ごと揃っています。ネタばれ率100%!小説風に書いているので、ドラマと二度楽しめます。
2017年6月7日水曜日
イ・サン77話(最終回)「愛よ永遠に」
王子は目の高さで紙を持ち、背筋をまっすぐにした。1枚読んだら卓上机に重ね、また次の1枚を手に取る。
上奏文や巻物、書物の山は小さな王子をうずめてしまいそうだ。
それでもまだ父上の質問に対する答えが見つからなくて、気分はどうもマンネリになってきた。
もう3日も食事をしていないと言って、ナムは王子の体をとても心配する。山菜などの小皿3つに、お椀、つけダレの膳は、手がつけられていないままだった。
王子は民と同じ食事でなければ、この謎は解けないと思い込んでいるらしい。
ひとまずこれが答えだと思うと、すぐに王様に会いに行った。
王様は丸メガネのひもを耳から外して、読みかけの文書をおろした。
「どうだ。答えは見つかったか。聖君になるために最も重要なものは何か」
とよほど答えを楽しみにしているらしく、机に前のめりで聞く。
「はい。民の願いを知ろうとすることです」
「その民の願いとは?」
「えっ? それは…安らかに暮らすことではありませんか?」
王子は目をぱちくりとした。
「ではそのために王がすべきことは何か」
すかさずまた質問が入る。
「王がすべきことですか。まずは…懸命に学問を修めることです。それから税金を減らして…」
うつろな目で答える王子に、サンが優しい父の声で結論を言った。
「それらも王がすべきことだが、最も重要とはいえない。もう一度ゆっくり考えてみよ」
王子は思わず首をひねった。
サンは正解の出なかったのを少しは残念に思っていたが、期待を失ったわけではない。なにしろ自分も幼い頃に同じ質問をされたのだ。根気強く付き合うつもりでいる。
祖父はもっと厳しく、怖い人だった。ときどき火のように怒った。しかし今となっては、愛情の深さがしみじみとよくわかる。
以前から仕事中に、頭痛とめまいに襲われていた。
どこまでが持病で、どこまでが過労なのかが曖昧だ。病状について御医とは詳しく話を交わしている。
市のたつ日だと聞き、市場へ視察に出かけた。景気が悪くてまるで賑わいはなかった。
宮殿に戻ってから、パク・チェガらと緊急会議を開いた。議題は荒銭 (デフレ)対策である。
銭の原料となる銅が高騰しているのだ。その対応策として、清の銅銭を輸入し市場に流すことに決めた。
会議の後、訓練場に出向いて、壮勇営の試技を見学した。
執務室にて、テスから新しくまとめた軍の訓練書を受け取ったのが、サド王世子の「武芸新譜」に加筆された「武芸図譜通志」であった。
王の食事係の水刺間は、供え物の準備に追われていた。
特に羅州と聞慶から献上された梨は、宣嬪様の好物だから丁寧に扱うように指示された。
翌日、サンは孝昌園で行われたその祭祀へ出席したのだった。
お供の者は大勢いるのに、出席者はそう多くない。
囲いも柵もない芝生の塚の周りに、脚が短く地面にお腹が付きそうなくらいぷっくりした石像の馬が、のんびり立っていた。安らかな顔立ちの古来の学者風の像もある。ソンヨンらしい温かな雰囲気の漂う墓地である。
お参りし、ソンヨンの墓碑からなかなか離れなかったワケを、テスはサンにこう言い訳した。
「王様のお体を守って欲しいと頼んでいたのです。健康を顧みず政務にばかり没頭されるので、休むよう言って欲しいと…」
「そうか。今夜は夢の中でソンヨンに小言を言われそうだな」
サンは冗談と受け取ったのか、笑みなど浮かべている。テスもつられて一瞬ホッとした気分になったが、じゃぁ仕事を減らそうかと王様は言いやしない。現実はより深刻だ。
「どうだテス? こうして見ると都の景色は壮観ではないか。私は民にとっていい王でありたい。額に汗して生きていく彼らのために力を尽くしたいのだ」
「王様、その願いはもう叶えられています。こんな太平な世はかつてなかったでしょう」
「いや、満足するのはまだ早い。私にはやりたいことも、やるべきこともたくさん残っている」
テスは何だかまた心配になってサンを見つめた。雑木林の間から、光がこぼれ落ち、葉の1枚1枚がサンの背後で白くぼんやり大きくなった。サンは目を細めて、都の景色をじっと見下ろしている。希望と寂しさの入り混じった目である。これから成し遂げることへの不安と緊張感が、サンにふと重いため息を吐かせた。
墓所からの帰り、清銭の使用に対し、デモが起こっていると聞いて、興仁門の現場へ寄った。後から後から抗議に押し寄せて来るのは商人たちだ。
原因は緊急輸入した清の銅銭が偽造されて、市場へ大量に流れていることにあった。
サンは4日間もまともに眠らず仕事に没頭した。寝床できちんと休んで欲しいとわざわざ執務室まで迎えに来たナム尚膳に、サンは言った。
「これしきのことで倒れはしない。地方に広がるニセ銭の状況を把握しなければならないから」
ナムは仕方なく執務室を後にすると、前庭へ控えていた尚宮に、王様は熱がおありのようだから御医を呼ぶようにと、深刻に指示した。
王様への報告のため、執務室の前庭までヤギョンがやって来たが、急ぎでなければ日を改めるようナムが断りを入れた。
そのためヤギョンの報告は、翌日の会議でとなった。参加者の顔ぶれはサンの他、パク・チェガ、ヤギョンをはじめ検書官6名である。
それから店を再開できずにいる商人に直接、話を聞こうと、ナムを伴い、サンがお忍びで市場へ繰り出した。
鋳造工房を見学し、すぐその足で、今度は銭の保管部署へも立ち寄った。
四角い穴あき銅銭の詰まった赤い木箱が、使い道のないまま土埃とともに壁の両側へ積み上げられている。問題は追加分がさらに清からまもなく到着予定だということであった。
御前会議を召集し、サンが重臣らに向けて発表した解決策は以下の通り。
「清の銅銭の流通令を撤回する。回収によって朝廷は莫大な損失を被るが、民の生活を脅かしてまで信用できない通貨を使うことはできない。これが最善の策だと私は思う」
サンもたびたび鋳銭所に足を運んでは、検書官らと一緒に、文献と銭を虫めがねで照らし合わせて、もっと安く銭を鋳造できないかと、新種の鉱物の調査にも取り組んだ。
磁鉄鉱を使った硬貨の見本をヤギョンが持ってきたとき、サンは昨夜からの泊まり込みで、支えなしで立ってはいられない状態だった。しかしヤギョンの前では、椅子の背に手をもたれて頑張り通した。
サンがつまんだ銭を熱心に眺めながら、「常平通宝と比べてみたい」と言うと、
「では取って参ります」とヤギョンはいったん部屋を出ていった。
まもなく王様が鋳銭所で倒れられたとの一報が中殿に入った。
年老いた恵慶宮は嘆き悲しみ、心配のあまりその場に倒れ込んでしまうかと思われた。が、持ち前の精神力で気力を奮い立たせると、慌ただしくサンの寝室へと飛んで行った。
御医はサンの枕元で中殿らに病状を報告した。
「体中に腫れものが出ております。それが膿んで高熱を発したため気を失われたのです。熊臓膏を処方していますが、意識の回復は何とも言えません。加減逍遥散をお出ししましょう。王様もこの処方を望んでおられましたので。これまで医官が反対していましたのは、解熱効果はあっても腫れものには効かないからです。ですが腫れものの治療はあきらめます。3日以上、熱が下がらなければこれ以上打つ手がありません…」
御医や医官、医女たちがそれこそ付きっきりで王様の看病をした。
3日目の夜には、金の燭台と、模様のついた黄色いろうそくを残して、いったん全員、部屋から引きあげていった。
サンはまだ深い眠りから覚めようとしない。息をするたび、花の刺繍をあしらった絹の掛け布団が、胸のところで持ちあがる。四角い枕にのせた頭は、哀れにもぐらぐらと揺れ続けた。唇は乾いてしぼみ、ときどきソンヨンを呼んでいるかのような形になった。
ふと迷路のような格子に人影がさし、白い足袋が敷居をまたいだ。花と印の模様を銀の刺繍であしらったスカートに、小さめの足を持つその人は、王様のそばへそっと忍びより、赤い盆を置いた。持ち手がリボンの布がかぶせてある。その布を取り払うと、煎じ薬の入った白磁の器があらわれた。
ソンヨンは目の周りを涙で赤く濡らしながら、いかにも懐かしそうに、自分の大切な子供でも見るように、サンをのぞきこんだ。
どうしてもっと体を大切しないのかと責めたい気持ちも少しある。でも仕事をやめろと言うことは、やっぱり無理そうだ。だからこそより愛しく、また可哀そうなのだ。
ソンヨンは白ひげのまじったサンの顔に、自分の小指を触れ、手のひらで頬を包みこんだ。
ぽたりと落ちたソンヨンの涙が触れ、サンが薄っすら眩しそうに目を開けた。
手を伸ばしたいのに、腕が動かない。するとソンヨンがサンの手を取って、抱き込むように握り返した。かぼそい息しか出せずに、声が声にもならないままサンは言った。
「そなたなのか。そこにいるのは…。ソンヨンなのか?」
「はい。王様、私です。私はここにいます。元気を出してください。まだ王様にはやるべきことが残っているではありませんか」
ソンヨンは微笑みながら泣いた。でもサンは何だか急にホッとして胸をなでおろした。
大殿の前庭が急に慌ただしくなったのは、その直後のことである。
御医から知らせを聞いた中殿らも、ナム尚膳と一緒に寝室へバタバタと入っていった。
「王様、私です。お分かりになりますか?」
中殿が涙目で、サンの顔をのぞき込んだ。
ナムも後ろに立っている。医女が薬を飲ませようと、ぐったりした王様の体を起こした。お尻の骨だけで座っている王様が、コマのように後ろへ倒れないよう首と肩を支えた。
皆の目には意識もうろうとした姿に映っているサンだったが、サンの頭の中は意外と冷静だった。
さっきまでそばにいたソンヨンがいないのがただ残念だ。まだ死ぬには早すぎたかと自分でも面白おかしくなった。
サンは何とか自力で座イスに座っていられるようになると、また1日中、卓上机の前で上奏文に目を通しはじめた。
ナムやテスが心配して忠告もしたが、サンにとってみれば残りわずかな時間だからこそ、1秒も無駄にはできなかった。
新しい上奏文を盆にのせ、部屋に運び、ナムはまたすぐにさがる。
するとサンはおぼつかない手で丸めがねのひもを耳にかけ、何とかして書類を読もうとした。落ちくぼんで腫れた目にどんなにしっかりレンズの位置を合わせても、文字がかすんで見えてしまう。1つ読み終わると筆を取り、紙にめいいっぱい目を近づけて根気よく署名した。それからまた次の上奏文を広げて署名する。首をうずめた姿は、羽の折れた白鳥のようだ。夜が更けても一人孤独に延々、サンはこの作業を続けた。
王様に呼ばれてテスが大殿へ顔を出してみると、王様はテスを見るなり、まるでいたずらでもしたみたいに、肩をちょこっと、すくめてみせた。
純祖、第23代国王である。
亡き王様の友人とあって、テスによく懐いている。テスは純祖と一緒に時敏堂まで散歩に行った。
「私が11歳の時でした。私が亡き王様にお会いしたのは」
「今の私と同じ年頃だな」
「はい。そうです、王様」
サンとの思い出話は、純祖の方がいつも聞きたがった。
サンの墓は石柵と塔で囲まれている。塚の方は周りの松林と同じに見えるくらいに盛ってあった。
テスは墓へ話しかけようと、石碑の厚いテーブルに手をのせた。大きな丸脚の台座にのせてあり、肩の高さある。今の時期は供え物もなく、まっさらとしていた。
「王様、いかがお過ごしですか? 宣嬪様とは再会されましたか? まだ決して終わってはいません。止まってもいません。いつしか民は王様の夢を形にしてくれるでしょう」
テスは丘を振り返り、芝生がぷっつり途切れた水平線を眺めた。その遙か下方にはサンが大切に思ってきた都が広がっている。
時敏堂で偶然、出会った幼い子供は、頼もしい王子と優しい図画署の茶母へと成長した。その幸せな姿のまま、きっと今頃、2人は天国で再会し、新しいスタートを切っていることだろう。
そんな2人が手を取り合い、まっ先に向かったのは、宮中を象徴するあの仁政殿の大広場であった。
2011/2/14
韓国ドラマイ・サンとは
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