2017年6月9日金曜日

イ・サン12話「三日の猶予」

ソ・インス達は、椅子に体を縛られ、中庭で判決を待っていた。ひどい拷問を受けて、すっかりやつれ果てている。
ソ・インスらは無罪であるというサンの判決を、王様はちょうど庭の門をくぐっていたときに聞いて、聞き違いかと思うほど驚いた。
ソ・インスを捕らえろという王命に、サンが異議を唱えたことになる。
「今そなたは、私の命令が聞けないと言っているのだな・・・?」
「恐れながら、さようです・・・」
サンは、うなだれながらも、はっきり答えた。
周りにいた重臣達は、こりゃあどうなることかと息をのんで、王様の方を見た。
王様は、まるで金縛りにでもあったみたいに、サンの顔をじっと見つめつづけた。

宮殿に戻ったサンは、王様の部屋に呼び出された。もう一度、落ち着いた状態で話をすれば、サンが考えを改めるだろうと思ったらしかった。
それでもサンの考えが変わることなどありえなかった。これまでじっと身を小さくして生きてきたのは、父さんとの約束があったからだ。
でも死んだように生きて何になるのだろう? ソ・インスらに無罪を宣告したことは、サンの叫びでもあった。
「彼らが無実ならそなたの父はどうだ? 言ってみよ」
サンはこの前も王様に同じことを聞かれた。王様はどうしても、はっきりさせたがっているようだった。王様の乾いたような目は、必死に何かに追いすがろうとしていた。
「本心をお尋ねでしょうか・・・? 一時逃れの嘘ではなく、胸のうちをお話してもよろしいのでしょうか」
サンは、いつのまにかぽろぽろと涙をこぼしながら答えた。
その涙が王様の古傷に染みて、ついには怒りとなった。
「王世子は罪人だ。さもなくば私が罪のない息子を殺したことになる。あやつは国の秩序を乱し、反逆を企てたのだ! 重臣たちもそう口をそろえた。もう何も聞きたくない。今すぐ出て行け!」
王様は、サンに向かって反論した。でもサンを責めれば責めるほど、おかしなことにそれらは全部自分に跳ね返ってくるのだった。

サンは刺客の遺体を調べるために、捕盗庁の死体小屋に顔を出した。
前護衛部隊長を無実にしたからには、その根拠を示さなければならない。
王様に許された期限は3日だった。
寝台に並べた死体には、それぞれむしろがかけてあった。爆発事件で、刺客は6人が死亡した。護衛部隊が何十人も死んだのに比べたら、はるかに少ない数だ。刺客はよほどの精鋭部隊に違いない。
遺体の傷からは、特に手がかりは得られなかった。パク・サチョや2名の護衛官と一緒に、いったん小屋の出口へ行きかけたサンは、遺体のブーツにふと目をとめた。
ブーツに絡まった沼地でしか育たない水草を手に取って、しげしげと眺めた。隣の遺体にも、やっぱり同じ水草が付着していた。

フギョムとホン・グギョンとの顔合わせは、わずかな会話を交わしただけで終わった。
賢い者同士、多くの説明などいらなかったのだ。
フギョムは、グギョンを部下にするために、国王直属機関勤務というすごい役職を用意していた。
「簡単に決めるわけにはいきません。あなたがどのようなお方か調べる必要がございますので・・・」
グギョンは、こう言い残した。
グギョンが帰ったあと、フギョムは、しばらく手つかずの料理を前にして、一人で宙を見つめるように物思いに沈んだ。
正直、面白い男だと思う。でも味方にできないなら、つぶさねばならない・・・
フギョムはおつきの男に、こんな風なことをぽつりと漏らした。

グギョンは、テスを呼び出して、兵曹判書の執事を尾行するよう指示した。
テスが見た“会高千司”という文字は、王世孫を陥れる計画に使われた暗号に違いない。その暗号を執事に持たせた兵曹判書は、恐らく敵の一味だろう。
兵曹判書の背後には、さらに謎の大物が控えているはずだった。

誰に仕えるかで運命は変わる。フギョムの誘いを簡単に決めるわけにいかないと言ったのはグギョンの本音でもあった。

執事を尾行したテスが、グギョンのところに舞い戻ってきた。
「さっぱりでしたよ。先生に言われて執事をつけ回したのにこの有様です!」
特に収穫はなかったらしい。
グギョンは質問を変えることにした。その男の行動を詳しく話してみるようテスに言ったのだ。
するとテスの説明から、執事の行動が浮かび上がってきた。
執事はまず兵書を購入したあと、一日中、女遊びを楽しんだらしい。それから米屋に立ち寄って、麦30俵、肉20斤の代金を先払いして帰った。
グギョンは眉を潜めた。麦30俵と肉20斤は数百人分の食事にあたる。
兵曹判書はなぜ、そんな大量の食料を調達したのだろう・・・? 

テスは、すっ飛んで米屋に戻り、店主に執事の行き先を聞いた。
「執事なら、もうとっくに荷を積んでいったさ! 谷の方へ行くって言ってたよ」
店主は、執事の去っていった方角を指差した。
テスは運よく執事のその馬車が、市場の宿屋に横づけされているのを発見することができた。
ところが随分とおかしなことに、宿屋に運び込まれた米俵は、再び裏口から外へ出されて、大きな荷車に積み上げられていく・・・
テスは隙を見計らって、その馬車の荷台の米俵の下に隠れた。

馬車はテスを載せたまま、ゴトゴトと走りはじめた。
やがて目的地に到着すると、辺りがすっかり暗くなるのを待ってからテスが動き出した。
草の茂みの向こうに、闇に浮かぶ巨大訓練場があった。
夜だというのに、たいまつがボーボー燃え盛り、地面から、温泉みたいな白い煙が立ちのぼっている。
旗が何本も、たなびいていた。
朱色の丸太を組んだアスレチックジム。声を張りあげる兵士たち。綱渡りをする者がいれば、火のついた桶を叩き割る者もいる。格闘の稽古に励む姿もあった。
そこは黒い海に浮かぶ別世界のようだった。

私兵の秘密養成所を見つけたとのテスの通報を、フギョムはその夜、耳にした。
訓練所に人の侵入を許すとは、大失態だった。すぐ養母ファワンに、このことを知らせて、私兵訓練所に人を送らなければならない。
それにテスの始末も必要だった。
フギョムに指示された部下は、捕盗庁をあとにしたテスを追って姿を消した。

「処理すべきことが山済みだ・・・」
考えごとをしながら捕盗庁の建物の中から庭へ出てきたフギョムは、まるでお化けでも見たみたいに、急にビクッとして足を止めた。
目の前に、歯をむき出しにして愛想よく笑うテスが立っていた。
「なぜここに戻ってきた・・・?!」
焦るフギョムに、テスはヘコヘコと腰を低くした。その隣にいるのが王世孫であることに、フギョムはようやく気づいた。

2009/1/10

韓国ドラマイ・サンとは

時代背景 イサンは朝鮮王朝22代王です。 1776年に即位して、1800年に亡くなっています。 日本では江戸時代の後期に当たり、中国は清の時代です。ドラマの中でイサンの父である思悼世子が米びつに閉じ込められる有名な事件が起きますが、これは1762年のことでした。 イサンの祖...