2017年6月9日金曜日

イ・サン14話「静かなる口封じ」

とつぜん呼び出されたフギョムが、養母ファワンの屋敷へ行ってみると、何やら深刻な顔をした兵曹判書ハン・ジュノの姿があった。
フギョムは、このハン・ジュノが持ってきた匿名の警告文を見て、とても驚いたのだった。
ハン・ジュノに書状を送りつけた正体不明のこの人物は、我々が仕組んだ“会高千司”の暗号から私兵養成のことまで、全てを知っているようだった。
フギョムはどうも気分が落ち着かなかった。
恐らくさっき、兵曹判書がのこのこと、この屋敷に入っていくところも、その人物は見ていたに違いない・・・
いくら後悔してみても、もう取り返しがつかなかった。

兵曹判書が嫌な予感に目をしょぼしょぼさせながら告白した。
「ここに来る前、実は私兵を他の場所に移すように妙寂山に使いを送った」
フギョムは、ぼう然となった。
もし、その使いが誰かにあとをつけられていたとしたら・・・?

兵曹判書の執事は妙寂山に着くと、兵曹判書からことづかった急報を兵士のリーダーに伝えた。
ところがおかしなことに、そばに立っていた兵士の顔がとつぜん白光りして、地面にバッタリと倒れた。
兵士の腹には、火のついた矢が突き刺さっていた。
執事は口をあんぐりと開けたまま、雑草や樹木の生い茂った広場やらを見回した。
その瞬間、禁軍の放った炎の矢が、風を切るようにびゅんびゅん空から舞い落ちてきた。続いて軍が、いっせいに突入してきた。火の雨は、やぐらや小屋にまで飛び移った。軍と私兵が激しく入り乱れ、あたりは戦場となった。

激しい戦いのあと、また静けさが戻り、虫の音だけが残った。
護衛2名が草をかきわけて、戦場から少し離れた空き地にたたずんでいたサンのもとへ駆けつけた。
「彼らの拠点を壊滅させました。武器を押収し、兵曹判書の執事も捕らえています!」
サンが小さく頷いた。

激しい雨が降り、雷がゴロゴロなっている。
テスは頭の上にムシロをかけて、塾の縁側へ駆け込んだ。
ちょうどグギョンが座敷に風呂敷を広げた中に、書物を重ねているところだった。なんと塾をやめるのだという。
テスは本当にびっくりして、縁側から座敷をのぞき込むようにして、文句を言った。武官に合格させてくれる約束だったのに、無責任にもほどがあると思ったのだ。
手をせっせと動かしながら、耳を傾けていたグギョンは、テスの話が、王世孫が敵を一網打尽にして危機を脱したというところまで来たとき、ようやく風呂敷を結び終えて、テスに言った。
「その話なら知っているとも。だからこれから挨拶に行くところだ」

グギョンが東宮殿に現れると、サンは卓上デスクに1通の書状をのせた。
「そなたの書状が役にたった。おかげで兵曹判書をおびき出し、敵の背後を暴けたのだ」
サンはねぎらいの言葉をかけながらも、グギョンのその目には野心があることに気づいていた。
でもなぜ、大臣達から攻撃ばかりされている自分につかえる道を、この男は選んだのだろう?
サンのこの質問に対して、グギョンは自信たっぷりな口調で答えた。
「手にした力は手段を選んで使うべきでしょう? 王世孫様にお使えすれば、それを実現できると確信しています・・・」

王様の顔はすっかり曇っていた。大臣達の話を鵜呑みにし、危うくソ・インスら罪のない人の命を奪うところだった。
最悪の事態は避けられた・・・。しかし王様は苦しんでいた。
その夜、正室がご機嫌伺いに部屋にやってきた。
王様は白いパジャマ姿で、まだ何かしきりに考え込んでいた。
「ではあの件はどうだろう? 私が判断を誤っていたとすれば、あの件は・・・!」
王様の呟きに中殿が思わずドキッとさせられたのも無理はない。あの件とは、紛れもなく王世子の死のことを指していた。
中殿が大臣達と共謀して、王世子を死罪に追いやった事件だった。

兵曹判書とファワンの共謀は、もはや言い逃れができない状況となった。
にも関わらず王様は、ファワンの処分を棚上げにすることにした。
兵曹判書ハン・ジュノが、単独犯行を自白する遺書を残して、檻の中で首をつったからだ。
係の男が血で書かれたハン・ジュノの遺書を持ってきたとき、サンは悔しさでいっぱいになった。
黒幕にまた先手を打たれたのだ・・・!
重臣の大部分とファワンが陰謀に関与していると気がつきながらも、真実は闇に葬られたままだ。

テスとソンヨンが東宮殿に招かれた。テスは私兵養成所のことを通報した件で、ソンヨンはソ・インス前衛部隊長の記録画を見つけた件で、褒美を賜ることになったのだ。
テスはサンに貰った小包のヒモをさっそく解いた。弓を射るときに使う指ぬきみたいな丸いのが入っていた。サンの愛用品らしい。
ソンヨンの手にした大きな平べったい風呂敷の中には立派な筆が並んでいた。柄の部分が色とりどりの数珠玉になったものだ。
「それらは王世孫ではなく、友として贈るものだ」
サンはすごく嬉しそうに言った。
謁見が終わると、テスはパク・サチョに案内されて、護衛官の訓練場を見学しにいった。
ソンヨンの方は、サンに連れられて書庫に行った。
サンは、金具のついた引き出しの扉を開けて、清の画集をいろいろと見せてやった。苔むした風合いの山水画が、ソンヨンの目に次々と飛び込んだ。
サンは夢中で語った。
「この画集はヨ・スクチンという女性画員のものだ。清では女性たちも画員になる。女だからダメだという古い考えは私が変えてみせよう。そなたも才能を生かして、図画署の画員になりなさい」

その頃、サンの妻、嬪宮は長い渡り廊下を歩いて書庫に向かっているところだった。
おつきの女は、布をかけた盆を持っている。中身は嬪宮が夫に用意した薬だった。
朱色の渡り廊下とつながった書庫は、壁扉が全て折りたたまれて開放感があり、山々の景色がずっと見渡せた。
書庫の前まで来たとき、嬪宮が足を止めた。
ソンヨンの小さな手を両手で優しく握りしめる夫の姿が目に映った。

2009/1/25更新

韓国ドラマイ・サンとは

時代背景 イサンは朝鮮王朝22代王です。 1776年に即位して、1800年に亡くなっています。 日本では江戸時代の後期に当たり、中国は清の時代です。ドラマの中でイサンの父である思悼世子が米びつに閉じ込められる有名な事件が起きますが、これは1762年のことでした。 イサンの祖...