審査の発表を、首を長くして待っていた画員や茶母たちは、元老らを引き連れて中庭に戻ってきたパク別提に注目した。
パク別提は軽く挨拶をしてから、さっそく帳簿を開いて発表を読み上げはじめた。
その1等から4等までの中に、ソンヨンの名前はなかった。
タク画員は今度こそ自分が呼ばれる番だと思ったろう。もし入賞できれば昇格も夢じゃない。
しかしタク画員の耳に入ったのは、自分の名前ではなかった。
「5等・・・茶母、ソン・ソンヨン!」
喜びの声があがる中で、多くの画員たちが納得できないという表情をした。特にタク画員は、悔しさでいっぱいのようだった。
上司の話だと審査員のうち2人は、ソンヨンの絵は見る価値さえないと言っていたらしい。ところが残りの3名は、ソンヨンに最高点をつけた。しかもソンヨンのその絵は、秋の風景という課題にも関わらず、彩色さえされていないただの墨絵だったのだ。
タク画員らの抗議を受けて、まもなくパク別提の部屋へソンヨンが呼ばれた。
パク別提の横には、ソンヨンに最高点を入れたという元老らが座っており、その膝元の机にはソンヨンが描いた墨絵が広げてあった。
中心に流れる1本の川は、山に向かって紙の上下へ曲がりくねり、岸辺の岩や草、樹木、その向こうに田畑が広がっている。岩や草などが強い線で1本ずつ陰影が描かれているのに比べ、遠くにかすむ山は、線のタッチが全くわからない風合いで墨がのせられていた。
説明をする前に、元老がまずソンヨンに、なぜ色を全く使わなかったのかを尋ねた。彩色に自信がないとも考えられたからだ。
しかしソンヨンの答えは、意外なものだった。
「私の席に置かれた顔料は、どういうわけかどれも色が濁っていて使えるものがなかったのでございます・・・」
これで画員達が納得したとも思えず、かといってこれ以上の説明も出来ないまま、ソンヨンが困ったように言葉を詰まらせていると、別の元老が快活な声で急に助け船を出した。
「私には墨だけを使ったこの絵の中に四季の風景だけでなく、春や夏、冬の風景が見える。季節とは移りゆくもの。絵には目に見える秋の色合いだけでなく、四季の色合いが含まれているべきではないか・・・? 我々がこの者の絵を5等としたのは、線の描き方、墨の使い方に秀で、十分評価に値するからだ」
最初に質問をした元老も付け加えた。
「1等となったとしても何の不思議もない。女に絵が描けるものかと半信半疑であったが、今日は誠にいい物を見せてもらった・・・」
晴れて画員になる一歩を踏み出したソンヨンに、パク別提は改めて嬪宮の妊娠祈願の屏風絵を描かせることにした。一時はその絵の中に気負いが見られたものの、十分自信を持っていい腕だということは今回のことで証明された。これから必要なのは、むしろ壁にぶち当たっても、それを乗り越えていく力だ。
「何があろうと負けてはならん。意思を強く持ち、最後までやり遂げるのだ」
パク別提の言葉に後押しされ、ソンヨンもまた志を強くした。
しかしパク別提の言葉通り、状況が一変に好転するというのは難しいことのようだった。
画学生の講義をしていたタク画員は、遅刻してきたソンヨンを講義の席に座らせることを拒んだ。ソンヨンは仕方なく楼閣の階段を下り、皆の顔さえ見えない庭で授業を聴いた。
昼間は母茶としての仕事があるので、嬪宮のざくろの屏風絵を描くのは、もう皆が引きあげた夜になった。
ひっそりと静まりかえった図画署の小屋の中で、ソンヨンは一人で作業をした。
ふっくら垂れたざくろの花々に、淡い黄色の色をつけたあと、その細かい枝の一つ一つに、筆の先で茶色い影を丁寧に落としていった。
お忍びで外出したサンは、テスの叔父に頼んで集めて貰った3人の貧しい商人に会っていた。
サンの狙いは商業の改革にあった。数百年に渡って専売商人が握ってきた都の商権を、貧しい民に分け与え、自由に商売ができるようにしようというものだ。
「そのようなまるで夢のようなことが本当に叶うのでしょうか・・・?」
話を聞いた貧しい商人たちは、目の前にいるのが王世孫であると知っていながらも、まだ半信半疑という顔だった。
国が商売を保護する代わりに、商人が税を納める・・・
確かにそれは誰もが聞き慣れない新しい取り組みだった。
しかしその数日後、チェ・ジェゴン、ナム、グギョンは、100人以上の闇の商人たちが、税を納める意思を示した署名を、サンの元へ持ってきた。そしてその後も署名の数は、どんどん増え続けていったのだ。
港近くの狭い路地の家壁に貼られたビラに、人々が集まっていた。
そのビラを目にしたとき、テスの叔父は思わず大きく手を打った。
闇の商売を許可するおふれが出ていたのだ。
役所へ行き、登録を済ませれば、これからは誰でも自由に商売ができる。
人々の関心が高い証拠に、簡易テーブルを出した役所の中庭には、すぐ登録を求める商人たちの列ができた。
麻布を売りたがっている男は、ようやく自分の番が来ると、役員に税5両を払った。すると役人はその場でサラサラと筆を走らせ、文の最後に印をつき、男に紙切れを手渡した。男はさも嬉しそうに、紙をまじまじと見つめながら立ち去っていった。
ファワンの御殿に、珍しい客人が訪れた。市場の頭領オ・ユンソクだった。
ユンソクは、手をそでに隠したまま、細身の体を猫背にして座った。
「御無沙汰致しまして申し訳ございません。近頃、市場で妙な噂が広まっております。このたび摂政を任された世孫様が、政務報告会で我々専売商人の要望を退けられたとか・・・」
専売商人が取り仕切ってきた公設市場を廃止にし、違法営業を合法化するというサンの改革は、オ・ユンソクら専売商人にとって、不利益なものだった。
「今まで公設市場は国が支えてきた。私たちがいる限り、王世孫がいくら権力を振りかざそうと好きにはさせぬ。安心するがよい」
ファワンの自信たっぷりな答えを聞いて、不満を訴えているにも関わらず、商人らしいしたたかな笑みを浮かべていたユンソクの顔が、ホッと安堵したものに変わった。
ファワンは、ユンソクのそでの下から、机の上へそっとのせられた封筒を見つめた。
重臣たちの分も入れると、かなりの金額が入っているのだろう。ふっくらと厚みのある包みだった。
2009/12/28
韓国ドラマイ・サンのあらすじサイト。1話~77話(最終回)までと各話ごと揃っています。ネタばれ率100%!小説風に書いているので、ドラマと二度楽しめます。
2017年6月9日金曜日
韓国ドラマイ・サンとは
時代背景 イサンは朝鮮王朝22代王です。 1776年に即位して、1800年に亡くなっています。 日本では江戸時代の後期に当たり、中国は清の時代です。ドラマの中でイサンの父である思悼世子が米びつに閉じ込められる有名な事件が起きますが、これは1762年のことでした。 イサンの祖...
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政治シーン 宮中の催事などを絵に記録する図画署が舞台ということで評判になった「イ・サン」ですが、チャングムみたいに物語の中心になっている感じはありません。 むしろ朝廷の闘争争いの方が印象に残りました。王様が主人公だけあって、トンイや馬医に比べて政治シーンが多いドラマです...
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時代背景 イサンは朝鮮王朝22代王です。 1776年に即位して、1800年に亡くなっています。 日本では江戸時代の後期に当たり、中国は清の時代です。ドラマの中でイサンの父である思悼世子が米びつに閉じ込められる有名な事件が起きますが、これは1762年のことでした。 イサンの祖...
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王子は目の高さで紙を持ち、背筋をまっすぐにした。1枚読んだら卓上机に重ね、また次の1枚を手に取る。 上奏文や巻物、書物の山は小さな王子をうずめてしまいそうだ。 それでもまだ父上の質問に対する答えが見つからなくて、気分はどうもマンネリになってきた。 もう3日も食事をしていない...