2017年6月9日金曜日

イ・サン4話「銃に刻まれた真実」

報告を受けて王様が駆けつけてみると、大きく掘り返された庭に木箱が四つ並んでいた。
中には銃やサヤのついた刀がぎっしりと詰まっている。その穴のそばでサンが途方に暮れていた。

王様はサンを厳しい目で見た。サンの父さんが武器庫を作っているという妙な噂が出たのは、去年の四月のことだった。

いくら何でもそこまで愚かなマネをすることはなかろうとそのときは聞き流したのだ。
でも目の前にこうしてじゃ~んとサンの住む庭から大量の武器が出てきたのだから、もう言い訳は効かない状況だ。

サン自身、どれだけ大変なことが起きているのかよく分かってはいたが、王様の視線がすごく怖くて、まともに見ていられなかった。


会議の席では重臣達がここぞとばかりに亡き王世子とサンをバッシングした。


王様もこの声を聞き入れて、サンのおつきの者達を詳しく取り調べるように指示することで、混乱を鎮めた。

重臣の一部はこれでひとまず安堵したようだった。だが実のところ王様は水面下でチェ・ジュゴンに、ある指令を出していたのである。

チェ・ジュゴンは、まもなくナム・サチョという男を連れて王の部屋へ上がった。

彼は内侍府の内部調査の経験を持つ男だ。

ジュゴンの隣でかしこまったサチョは、最初王様に呼ばれた理由がさっぱりわからない様子だった。

「武器庫を作った犯人を探すように……」

王命に戸惑いながら、サチョはおずおずと口を開いた。

「恐れながら、何者かが王世孫様を罠にはめようとしているということでしょうか……?」


「いや、そうではない。誰がウソをついているのか知りたいだけだ」

王様は簡潔に返したが、そのまなざしは射るように鋭かった。



サチョの指令を受けて、まもなく三人の部下が動きはじめた。
彼らのうち優秀な二人に、最初に武器庫を発見した男と行方不明になった王世子の元護衛の捜索にあたらせた。

そして残る一人には、テスの叔父である内官パク・タロを起用した。

パク・タロはなぜ落ちこぼれの自分に、銃の密売調査なんか任せるのか、どうも腑に落ちなかったものの、命令とあらば従うしかない。
さっそくガラの悪い遊び仲間がいそうな町へ情報収集に出掛けた。


サンの母、恵嬪は部屋に入ると心配そうにサンへ声をかけた。

「上奏文をまだ書いてないのですか……?」

サンは真っ白な紙をただ見つめている。そのうち涙をポタポタとこぼしはじめた。

「父上も母上も生き延びよとおっしゃいますが、私にはその方法が分からないのです。父上を陥れるわけにも、また母上を苦しめるわけにもいきません。宮廷は怖いところです。おじい様も怖いです……」

恵嬪は不憫なサンを思わず抱きしめた。まだほんの十一歳にしかならない子供の口から、こんな言葉が吐き出されるとは……


まもなく王様のもとへ、サチョが調査結果の報告にやって来た。

サチョは王世子が銃八十丁買い入れた証拠として、元護衛官の家から押収した二千両の手形の切れ端を手にしていた。
こんな大事な証拠をなぜ処分せずに残しておいたのか不審に思いながら……


この他にも銃八十丁、大砲四十五問、弾丸三百五十発が各地で見つかった。


さらにサチョはパク・タロから興味深い絵を受け取った。


絵を描いたのはソンヨンという娘だった。
オ・ジョンナム行首の屋敷の裏庭で見た光景を、そっくりそのまま描いたものらしい。

ソンヨンはオ・ジョンナムと手下たちが、横流しした銃をリレー方式でせっせと木箱に詰め込んでいる現場を偶然目撃したという。

なんとそこにあるのは武器庫から出てきたのと同型の銃であった。

政府機関製造の刻印もばっちりある。

サンの御殿の庭で発見された銃からも、やっぱりこれと同じ印が見つかった。

注目すべきはその日付であろう。
銃身部分に壬午六月と刻み込まれた日付は、王世子が亡くなった五月以降に作られた銃である紛れもない証拠だ。
つまりは王世子が死んだ後になって、何者かがサンの御殿の庭へ銃をわざわざ隠したのだ……

オ・ジョンナムを尋問すれば、きっとその黒幕の正体が浮かび上がるに違いない……

だが奇しくもその晩、オ・ジョンナムは牢の中で息絶えているのを牢番の男によって発見されたのである。


事件のあと、サンはサチョから初めてテスとソンヨンのことを聞かされた。
(宮中の外にいても二人が相変わらず自分のことを心配してくれている……!)
サンの心にはパーッと光がさした。

できればすぐにでも、二人に会いたいくらいだった。



テスと市場を見物していたパク・タロは、大笑いしながら急に道を曲がった。

次の瞬間、テスの手をつないで慌てて駆け出した。

同時に刺客も二人の後を追った。


庭に洗濯物を干していたソンヨンは、危うく刺客に切りつけられる直前まで彼らの存在に気づかなかった。
でもパク・タロにとつぜん口をふさがれ、命拾いしたのだ。

そのままタロと一緒に、ソンヨンは逃げ出した。

深い山道を通って、やがて岸辺へ下りていった。
生憎、白い帆船が岸から離れようとしていた。しかも後ろからはすぐ刺客が迫ってきていた。

三人は丘を転がり落ちるようにして、必死になって船を追いかけた。

途中でソンヨンがずっこけ、タロが素早く肩にかついで船へと飛び乗った。


小船の中には客が数人乗っているだけだった。
いったん沖へ出てしまえば、嘘みたいに辺りは静かになって波の音だけがぽちゃんぽちゃんした。

パク・タロは手すりにダランと寄りかかり、ほとほと疲れ果てたようにぽつりと呟いた。

「ひとまず船に乗れたから花津浦まで行こうか……」


それにしてもテスはどうして急に自分達が狙われたのか、さっぱりわからなかった。叔父さんは何だか説明する気力さえ、なさそうに見える。ただもう都に帰るわけにはいかなそうだった。

「見てテス! 都があんなに小さいわ!」

ソンヨンが面白そうに岸辺を指差した。
テスの目にも家々の黒い屋根が、波と同じように左右にゆっくり揺れる様子が映った。

ソンヨンはテスの表情が何となく暗いのを見て、自分も不安になった。そう言えば都を離れてしまうことを、王世孫様に全く言ってなかったのだ……

テスもやっぱり気にかかっていたのだろう。とつぜん都の方に向かって叫んだ。

「王世孫様ぁー。聴こえますかぁー? 俺です。テスです!」

ソンヨンも続けて口に手をあてて叫んだ。

「王世孫様ぁーっ。ソンヨンです。約束は必ず守りますから、私とテスを忘れないでくださいねぇぇーっ!」

船は、向こうにそびえる山にのみこまれるように小さくなって、後にはセピア色の波がきらきら瞬いた。


サンは目を覚ました。そこは一人きりの寝室で冷たい暗闇があるばかりだった。

ここには誰もいないはずなのに、ソンヨンとテスが自分を呼ぶ声が、不思議と頭の中に響いている……


あれからあっという間に九年が経って、サンは二十歳になっていた。





2008/11/15更新




韓国ドラマイ・サンとは

時代背景 イサンは朝鮮王朝22代王です。 1776年に即位して、1800年に亡くなっています。 日本では江戸時代の後期に当たり、中国は清の時代です。ドラマの中でイサンの父である思悼世子が米びつに閉じ込められる有名な事件が起きますが、これは1762年のことでした。 イサンの祖...